2022年07月31日

愛する皆さま

主の御名を心よりほめたたえます。

 

私は神学校時代に博士論文を書くために膨大な史料を探し集めたことがあります。中でも特に多くの時間をかけて取り組んだ作業が、日本の教会と韓国の教会で宣教の働きのために尽くした海外宣教師たちの史料を集めることです。多くの宣教師の中で興味深い人物を発見したので、機会があれば皆さんに紹介したいと思っていました。その宣教師の名前はアレクサンダー・ピーターズ(Alexander A. Pieters)です。とても珍しい経歴の持ち主で、また不思議な経緯で宣教師になったこと、さらに日本と韓国の教会の両方に関わりのある人物という点に目を引かれ、彼について深く調べたことがあります。

 

彼のもともとの名前はイサク・フロムキンでした。ウクライナ出身でユダヤ教徒の家庭で生まれたため、自然とユダヤ教徒として育てられました。しかし当時ウクライナは帝政ロシアの支配下にあり、現在と似たような状況で政治的に不安定でした。ロシアによるユダヤ人差別政策もあり、ウクライナ国内に希望がないと思った彼は、1890年代にアメリカに渡るために香港を経由して日本の長崎に到着しました。しかしそこでアメリカでも反ユダヤ主義の流れがあると聞き、彼は行き場を失ってしまったのです。

 

そんな中で彼は不思議な形で長崎にあるプロテスタント教会の礼拝に参加することになりました。きっと飢え渇いていたことでしょう。礼拝後、当時その教会で牧会をしていたアレクサンダー・ピーターズという宣教師に出会い彼から福音を聞き、それから約2週間後にはなんと洗礼を受けたそうです。そして自分の名前を洗礼を授けてくれた牧師の名前に変えました。その後、彼は不思議な導きによって日本にあるアメリカの聖書協会につながります。ユダヤ人であることもあり、彼は言語的に優れた才能を持っていました。当時彼はヘブライ語やロシア語、ウクライナ語はもちろん、ギリシャ語、ドイツ語、フランス語を自由に話せ、日本にいる間に英語も学んだそうです。そしてアメリカ聖書協会と日本の教会の支援を得て韓国(当時の朝鮮)に聖書販売員として派遣されることになりました。

 

韓国に渡った彼は言語の才能を生かして、旧約聖書、詩編を初めて韓国語に翻訳しました。それから彼は韓国版の聖書協会のメンバーに加わり、主に旧約聖書の翻訳に携わりました。また彼は讃美歌の翻訳にも卓越した才能を発揮し、多くの讃美歌を美しい韓国語に訳しました。それだけでなく、教会開拓にも熱心に加わり、多くの教会が開拓されました。現在でも彼が開拓に関わった多くの教会が韓国に残っています。

 

このような彼の素晴らしい働きの背景に日本の教会があったことは私にとって本当に素晴らしい意味があります。なぜなら当時まだ小さくて弱い日本の教会の献身の結果、今でも多くの韓国のクリスチャンに愛されている詩編の美しいみ言葉が韓国の教会に与えられたからです。今度は私の小さな一歩を通して、日本の教会に恩返しができればいいなと改めて思いました。

 

しかし、自分の決められた道を走りとおし、また、主イエスからいただいた、神の恵みの福音を力強く証しするという任務を果たすことができさえすれば、この命すら決して惜しいとは思いません。

(使徒言行録 20:24)

 

在主 林 尚俊

 

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